■「QTREE. 」とは何か? 新しいシステム誕生のきっかけとは?
生田目: |
まずは、直営1号店「QTREE. 」の開店、お疲れ様でした。 |
髙木: |
ありがとうございます。ついに1号店がオープンできましたね。
そもそも私は、大学時代に出会った愛犬がきっかけでグルーマーになり、アメリカ留学を経て、今に至ります。ご存じの通り、アメリカ留学時に犬に負担をかけずに速く仕上げるグルーミングの仕方、そしてグルーマーにも負担のないやり方を知りました。それを日本に持ち帰り、飼い主さまの好みやライフスタイルに合わせてアレンジすることで、スピードトリミング®が生まれました。 |
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犬たちのトリミングをする中で、そのコの一生をみてあげたいという気持ちが強くありましたが、そのためには獣医さんとの連携は切り離せません。病気の早期発見や対応はもちろん、どんなコでも確実に老いてくるので、何かあったときは絶対に獣医さんの力が必要です。動物病院と連携したトリミングサロンを作る理想の第一歩が、今回のQTREE. になりました。 |
生田目: |
QTREE. は動物病院と連携できるトリミングサロンとして、トリマー・獣医師・飼い主の全員がその犬に関する正確な情報(性格や行動的特徴、病気の状態など)を共有し、高齢犬や疾患犬などそれぞれの犬に最適なトリミングサービスを提供するシステムを導入しています。
今回、QAL startupsとの共同事業という形でQTREE. 事業をスタートさせたわけですが、一緒に事業を進めると決めたきっかけは何でしょうか? |
髙木: |
生田目さんが一緒にやらないか?と声をかけてきたからですよ。忘れたんですか??(笑)。でも、目指す方向が同じじゃなかったらやらなかったです。私のスピードトリミング®のすべてを取り入れていいとおっしゃってくれたのも大きいですね。それがなければやっていません。
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そしてこの動物病院連携型トリミングサロンという仕組みは、絶対に誰しもが望んでいることだと思っています。
QAL (Quality of Animal Life)の向上につながる製品・サービスを掲げる QAL startupsさんと一緒にやることで、私の思い描く理想に絶対に近づく、そして成功できると確信しました。
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■問題点は獣医師とトリマーの連携にある。仲が良くコミュニケーションをとっているという話はあまり聞かない。
生田目: |
飼い主さまは、トリミングサロンに行けばトリマーと会話しますし、動物病院に行けば獣医師と会話しますよね。それぞれ必要なタイミングに応じてコミュニケーションをとることができていると思います。ではトリマーと獣医師はどうでしょうか。途端にコミュニケーションがなくなり、円滑な情報共有ができなくなるという話もよく耳にしますが、実際のところはいかがですか? |
髙木: |
トリマーの業界に入った時点から、両者の溝を感じていました。トリマーも獣医さんも犬や動物が好きで、良くしようと思っているのに、どうしてこんなに仲が良くないのだろうか、と。そもそもトリマーと獣医さんは直接会うことがありません。常に飼い主さまを介して意見が交わるため、意思疎通がうまくいくわけがないのです。それはお互いに、そして飼い主さまにとってもストレスだと思います。 |
■獣医師とトリマーの間に挟まれた飼い主さまが困っている。具体的にどのようなところに不便があるのか?
生田目: |
飼い主さまを挟んだ形でのコミュニケーションしかない状態では、正確な情報が伝わらないことは大いに考えられますね。それに、どちらも職人気質なところがあると思うので、双方の分野のことを知る機会がなければ話が平行線になるのは当たり前です。しかし、それで不便になって困るのが、獣医療とトリミングの両方のサービスを受ける側の飼い主さまです。 |
立石: |
1人の飼い主の立場からみてみると、獣医さんもトリマーさんも、その双方が“動物の専門家“であり、すごく重要な意見やアドバイスをもらったときは積極的に実践したいと思 うはずです。飼い主さまはそれが愛犬のためになるなら、何だってしてあげたいというのが本音でしょう。ですが、獣医さんとトリマーさんからはそれぞれ別々の意見を言われることがあります。双方にそれを伝えても、どちらも譲らないので、飼い主は大混乱になりますよ。愛犬にとって良いことをしてあげたいのに、意見の板挟みになってしまい、結果的に片方の意見のみを選択することになってしまう。両者がコミュニケーションをとって、最良な意見を提示してくれたらどんなに良いかと思います。 |
■トリマーがやるべきことをもう一度考えなくてはならない。
生田目: |
トリマーはその犬の全身に触れ、目で確認し、飼い主さまが見つけられていない異変に気付いたりすることも多いと思います。異変の早期発見は、飼い主さまと犬のQAL向上のためには、とても重要なポイントで、それを獣医師と共有できれば、適切な治療を早い段階から受けられるはずです。皆が思っていることですが、それでも獣医師とうまく連携することができないことが多いのはなぜでしょうか? |
髙木: |
私はトリマーの勉強不足が大きな要因だと思います。自分たちがどういう立場なのかをもう一度認識して、もっと深くトリミングを学ぶべきではないでしょうか。私たちトリマーは診断ができません。でも、獣医さんが気づかないことに気づくことができ、それは結果的に犬を助けることにもつながります。病気を見つける、というよりも、“いつもと違う”という変化にいち早く気づきそれを獣医さんに共有することが、私たちの役目なのです。
私のサロン(TALL TREE. /トールトゥリー)の場合、良い関係を築けている病院があるので、どんどん言ってますよ(笑)。もしお店に来ているコが私の知らない病院にかかっていた場合は、直接電話して状況を伝えます。獣医さんと連携することがどれだけ重要なことなのかを理解しているので、できる限り連絡しますね。 |
生田目: |
まさにその連携スタイルをすべて取り入れたのがQTREE. ですね。髙木さんがやっていることをシステム的に全国に広めていきたいと思っています。 |
■獣医師にもトリマー側の意見をわかってほしい。
立石: |
逆にトリマーとしては、もっと獣医さんにもトリミングのことや危険性、トリミング後に現れる症状などを理解してほしいですよね 。飼い主さまにとっては、かかりつけの動物病院の先生がトリミングを認識したうえで診察してくれたらとても安心なのですが、実際は「トリミングで無理させたからでしょう」と言われてしまいます。 |
生田目: |
そもそも、獣医師は自分からアクセスしない限り、トリミングに関する情報を得たり学んだりする機会はありません。たとえば、髙木さんのスピードトリミング®と普通のトリミングの違いがわかる獣医師は何人もいないと思いますよ。
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また、病気の説明をしようとしてもトリマーに基本的な知識がなさすぎるので、コミュニケーションを諦めてしまっている部分もあるかもしれません。極端なことを言えば、皮膚科に精通した獣医師以外は、犬の美容に対する興味は薄いと思います。だからこそ、それをQTREE. で解決したい。トリミングに行った後に調子が悪くなってしまった、という理由で動物病院に来る飼い主さまもいるため、トリミング自体に間違った悪いイメージを持っている獣医師がいることも事実でしょう。先ほどの話にもありましたが、飼い主さまを介してのコミュニケーションになるので、トリマー側の真意も分からない状態になります。
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■QTREE. の目指すものとは?
生田目: |
トリマー側、獣医師側の問題点をそれぞれ理解したうえで、飼い主さまとサロンも含めたコミュニケーションが円滑にできるシステム作りを実施し、QTREE. はスタートしました。第一歩としての最初の目標はどこになりますか? |
髙木: |
獣医師・トリマー・飼い主さまという3者間の円滑なコミュケーションを叶えるシステムをしっかりと確立させたいですね。かかりつけの動物病院としっかり意見をキャッチボールできる状態は、やはり心地良いです。だからこそシステム化して、トリマーと獣医さんの双方が意見を伝えやすく、お互いに任せられる仕組みを作ります。それが飼い主さまへの安心につながっていくと思います。
これによって、今までトリマーがどこまで獣医さんに聞いて良いのか、言って良いのかがわからなかった曖昧な部分に対して、一つの基準を作ることができるでしょう。 |
立石: |
QTREE. だから安心できる、満足できる、と飼い主さまに感じてほしいです。でも、それは飼い主さまの要望を100%きくという意味ではありません。飼い主さまの要望であってもまずは犬のことを考えて、獣医師の意見も加味してハッキリ伝えてくれる、それがQTREE. です。できないものはできないと言ってしまうと、最初は飼い主さまに嫌われてしまうかもしれませんが、いつか振り返ってみたときに、うちの子のことを考えてくれていたんだな、QTREE. で良かったと思ってもらえたら嬉しいです。 |
■QTREE. は具体的に他のサロンと何が違うのでしょうか?
生田目: |
今まで、トリミングサロンと言えば独立店舗型サロン、自宅併設サロン、ショップ併設サロン、動物病院併設サロンなどがあり、それぞれのサロンが目的や目標のもとにサービスを提供していると思います。その中で、今回立ち上げたQTREE. は今までのサロンと具体的には何が違うのでしょうか? |
髙木: |
まず大前提として私が今までスピートトリミング®としてお伝えしてきた内容、そしてTALL TREE. でやってきた内容をそのままできるトリミングサロンにします。それに加えて、動物病院と連携するシステムを作り、高齢犬や疾患犬も対応してあげられるようなお店にします。 |
立石: |
一般のトリミングサロンでは高齢犬や疾患犬の施術は、安全面を考慮して、お断りせざるを得ないのが現状です。でも、たとえば相模原市を例にみてみると、約半数の動物病院が併設のトリミングサロンを持っていません。併設サロンを持たない動物病院がかかりつけの飼い主さまたちは、愛犬のトリミングを安心して任せることのできる施設がないということが想像できます。また高齢になると、ずっと通っていたサロンから施術を断られることも考えられます。だったら、かかりつけの病院でみてもらいつつ、その病院と連携できるサロンがあれば良いですよね。QTREE. では、このような犬たちの受け皿として、それぞれの動物病院と直接連携して、トリマーと獣医さんが直接コミュニケーションを取り、各院の併設サロンのような形で最適なサービスを提供していきます。動物病院・トリミングサロン・飼い主さまが愛犬のために協力する、それが当たり前の世の中にしていきたいと思っています。 |
髙木: |
犬にとってHAPPYではないことはやりません。犬にもトリマーにとってもやさしい、それが一番重要なポイントです。私たちの“やさしい定義”は、犬の状態を見て適切な判断ができることです。きちんとした知識と実力があるから、何が犬に良くて何が良くないのか判断し、やることやらないことを選べることが犬にやさしいことだと思います。その基準をQTREE. ではもっと噛み砕いて作りたいですね。 |
生田目: |
やさしいことをするには実力が必要ですよね。そしてシステムも大事です。髙木さんのスピードトリミング®は、わからない人からすればただのテクニックかもしれないけど、実はコンセプトとシステムであり、それを行うために技術と知識が必要なのです。QTREE. も同じようにコンセプトと連携のシステムがあり、それぞれを支える技術と知識をきちんと備えたお店にしていっていただきたいです。 |
■QTREE. 事業の今後の展開とは?
生田目: |
まずは直営1号店がオープンし、この店舗運営を軌道に乗せること。そして理想としている品質を保ち、安定した運営をすることに注力していると思います。今後、QTREE. 事業としてはどのように展開していきたいと考えていますか? |
立石: |
1号店に続き、直営の2号店、3号店をオープンさせていきたいと思っています。これらの店舗はトリミングサロンとしてだけでなく、今後はトリマーさんたちの学習の場としても活用していきたいです。QTREE. のような動物病院連携型トリミングサロンは、今後のペット業界に確実に必要となります。だからこそ、直営店のみの展開ではなく、これらのノウハウを提供する教育事業を展開していきたいと考えています。オンラインサロンやセミナー等、座学で学びを提供し、実際の直営店での実地研修を行います。頭でだけでなく、実際に手を動かし、体を動かしながらこれらのノウハウをぜひ身に付けていただきたいですね。 |
髙木: |
私たち自身も常に学ぶ姿勢は崩さずに進めていきたいです。実は今回の事業は、スピードトリミング®の次の形ととらえています。新しい動物病院との連携の中で、トリマーとトリミングサロンにとっての新しいスタンダードなやりかたをこの店から生み出していきたいと思っています。
製品や知見、様々な新しいものが日々生まれ、発見されています。新しいモノやコトは敬遠されがちですけど、時代とともに変わるのが当たり前ですよね。実際、私が始めたスピードトリミング®もどんどん進化しています。だからこそ、QTREE. のやり方も日々アップデートしていきたいですね。また、1号店がオープンしたからこそ、現場での知見も蓄積していくことができるなと感じています。将来的には、例えば、心臓病の子だったら、お湯の温度は何度以下、何分以内で必ず洗うとか、乾かし方はこうだ、などの具体的な基準を作っていきたいです。 |
生田目: |
教育事業として展開していくことができれば、この動物病院連携型トリミングサロンのスタンダード、ノウハウを持ったサロンを全国に増やしていくことができますね。トリミングサロンは動物病院と連携しているのが当たり前という世の中になれば、飼い主さまたちにもっと、ペットを飼いやすい場所、町が生まれていく。それはもちろん、QAL startupsが目指す、飼い主さまと犬のQAL向上を叶えることができる社会になるはずです。
今後のQTREE. 事業の構想についてお話していただきましたが、髙木さんご自身は今後QTREE. 事業にどのようにかかわっていかれるのでしょうか? |
髙木: |
今まではスピードトリミング®の髙木美樹、TALL TREE. の髙木美樹でしたが、今後はQTREE. の髙木美樹になりたいです。私が目指している形がQTREE. であり、そのシステムを取り入れたサロンを増やしていきたい。教育事業、新しいスタンダードを作ることをはじめ、細かいことでも力になれたらと思っています。
私自身、昔はただのトリマーでした。そして今は経営者に近いトリマーになりました。トリマーはみんな技術にこだわりすぎてしまうから、再現性のないものばかりが増えていってしまいます。そうではなくて、一連の流れを作って正しい順番でトリミングをする。そして動物病院と連携して、犬と飼い主さまにとって安心なシステムを作ります。完成度を高めていくためには数年はかかると思いますが、QTREE. で新しいシステム、次のスタンダードを作りたいです。 |
生田目: |
ありがとうございました。私たちも目指すところは同じです。 |
立石: |
一緒に頑張っていきましょう。 |
- 生田目康道(なまため・やすみち)
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株式会社 QAL startups 代表取締役
獣医師、企業家。2003年に独立起業。その後17年で動物医療領域を起点とした9社の創業と経営を経験。2009年には、株式会社ペティエンスメディカル(現株式会社QIX)代表取締役社長に就任。ペットとペットオーナーに本当に必要なモノを提供すべく顧客ニーズと時代変化を見据えた数々の商品を手掛ける。2018年12月より掲げた、動物の生活の質(Quality of Animal Life)=QALを向上させるというビジョンのもと、2020年に株式会社QAL startupsを設立。業界内外のパートナーとともに、QAL向上に資する各種プロダクトと事業の開発に取り組んでいる。
- 髙木美樹(たかぎ・みき)
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株式会社 TALL TREE. 代表取締役
JKC 公認トリマー A級
andis Educator※
スピードトリミング®創始者
グラフィックトリミング発案者
TALL TREE. オーナーグルーマー。多くの雑誌にも取り上げられ、全国各地、海外でも多数のセミナーを開催。アメリカのコンテスト入賞経験をはじめ、トリミング関連コンテストの審査員も務める。「経験に勝つものなし!」を心情に、常に新しい刺激を求め続けている。道具へのこだわりも強く、シャンプー、シザーをはじめとする様々なトリミング用品を企画・製造・販売する。犬に対しても優しさ、負担の軽減、道具へのこだわりなど、常に探求心を持ち、新しいスタイルを確立し続けている。
発刊書籍に「はじめよう!スピードトリミング®」(インターズー)、「スピードトリミング®2」(インターズー)、 グラフィックトリミング ロジカルトレーニング BOOK」(EDUWARD Press)がある。
※全米No.1クリッパーメーカーandisが認めた教育・普及活動を行う専門家、アジアで初任命
- 立石佳奈子(たていし・かなこ)
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株式会社 QAL startups 事業開発部 QTREE. 事業責任者
麻布大学大学院獣医学研究科修了 学術博士
麻布大学介在動物学研究室卒業、同大博士(学術)号取得および非常勤講師を務める。飼い主と犬のより良い関係構築 の一助となるべく、飼い主の性格特性と犬の行動の関係性について研究。株式会社QIX入社後、学術営業担当として特に獣医皮膚科学・スキンケア分野を中心に学術資料作成や勉強会セミナーを受け持つ。特にスキンケア分野で、飼い主の協力・トリマーのサポートによる継続の必要性を強く感じ、トリミング関連事業を担当。髙木美樹と出会い、疾病治療・健康維持に加え、キレイ・カワイイの提供によりペットと飼い主の生活の質が向上することに共鳴する。QAL startups立ち上げスタッフとして尽力し、現在はQTREE. 事業責任者として従事。“トリミング”という切り口からペットと飼い主のQAL向上のために取り組んでいる。無類の大型犬好きで、愛犬はバーニーズマウンテンドッグの太陽。