QAL startups流、新規事業の作り方と題した新連載。3回目となる今回は、オンライン相談・診療システム「みるペット」を提供する、株式会社みるペットの浅沼直之氏と石川直人氏が登場。遠隔診療に関する現状やみるペット立ち上げの経緯、今後の展開について伺いました。
ゲスト:浅沼 直之(株式会社みるペット代表取締役社長)
石川 直人(株式会社みるペット取締役)
獣医療を起点とし、人とペットの間にある課題を解決するスタートアップスタジオ「QAL startups」。その中心メンバーにして、獣医師・企業家である生田目康道(QAL startups代表取締役)が、これからのペット業界に求められる新規事業創造の現場を探る連続対談シリーズ
QAL startups流、新規事業の作り方と題した新連載。3回目となる今回は、オンライン相談・診療システム「みるペット」を提供する、株式会社みるペットの浅沼直之氏と石川直人氏が登場。遠隔診療に関する現状やみるペット立ち上げの経緯、今後の展開について伺いました。
生田目: | 今回は動物病院への遠隔診療サービスのプラットフォームを提供している、株式会社みるペットの浅沼社長・石川取締役にお話を伺います。早速ですが、オンライン診療について教えて下さい。人の医療では遠隔診療が日夜発展していると聞いています。現状の遠隔診療における規制や方針に関して教えてもらえますか? |
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浅沼: | 人の医療のガイドラインは2018年に発表されて、今までに一度だけ改訂がありました。おそらく近年中に次の更新がされると思います。最初のガイドラインでは初診は原則不可、そして保険診療の制限が厳しくて、あまり有効な使い方はできませんでした。しかし、今はコロナ禍のため、時限的な措置として初診もできるようになっています。現在は、それを恒常的なものにするために具体的なルールを整備して、厚生労働省とガイドラインの検討会のほうで議論が進んでいるところです。 |
石川: | コロナ禍になってからは、患者側は病院に行きにくくなり、病院側は過度の来院は控えてほしいという要望が多くなったのでオンライン診療での初診もOKになったんです。今後はガイドラインの改訂が進みそうです。 |
生田目: | 人の医療の場合、どのようなものでオンライン診療の需要がありますか? |
石川: | 基本的には自由診療です。AGA、ED、ピルの処方、そして対面よりも効果が高いとされているのが禁煙治療ですね。忙しいサラリーマンが毎回予約して通うのは難しくて離脱率が高かったのですが、オンラインだと空いた時間に診てもうことができ、薬も郵送で届きます。 保険診療の場合は、適する、適さない項目があると思います。積極的に活用されているのは、小児科や皮膚科です。子どもを連れて病院に行くのは大変です。準備だけではなく、院内では周囲への配慮など、気疲れしてしまうことも多い。定期的に薬をもらう程度であれば、オンラインのほうが利便性は高くなります。 |
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生田目: | みるペットのサービスを動物医療の領域で広げるために今後どういったことをされるのでしょう?動物は人に例えるならば現状すべてが自由診療です。オンラインがデファクトスタンダード(事実上の標準)になっていくには何かと協力する必要があると思います。 |
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浅沼: | 動物病院側にとっては、オンラインで飼い主のニーズを満たせるか、満足度を上げられるかが焦点になります。加えて、みるペットを使うことで院内の業務効率が改善することを示せれば、ニーズは増えていくと思います。飼い主側にもメリットが大きいと思いますので、まずは動物病院側にアピールしていきたいです。 |
石川: | 動物病院側との連動性をどうやって高めるかが課題だと思います。みるペットを活用することで、収益がアップするモデルを示していきたいです。お金を払うことでもっと儲かる、業務効率が上がる、コストが下がる、というものを数値で示すことでさらに広がり、新しい動物診療のスタンダードになると思います。これは人の医療で使われているシステムをそのまま持ってきても使えるわけではありません。 |
生田目: | お聞きしていると、動物医療には固有かつオリジナルのオンライン診療相談のサービスが必要ということですね。現時点では、みるペットのサービスが最も有益と言えると思います。 |
生田目: | みるペットさんが先陣を切ってオンライン診療を推進している一方で、動物病院ではまだまだ遠隔診療やDXは一般的ではありません。この先どのようになっていくのでしょうか。 |
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浅沼: | おっしゃるとおり、動物病院のDX化はまだまだという印象です。人の一般的なクリニックと比べても電子カルテの普及率もかなり低い状態です。これを変えていくためには、私は動物病院を経営という観点で見ていくことが大事だと思います。DX化だけを見るのではなくて、残業をどう減らしていくのかなどのオペレーションの改善を考えた時にデジタルツールの活用を検討するのです。その中のひとつとして、オンライン診療であればみるペットを取り入れていただきたい。業界全体でも、まずはオーナーが経営や業務効率を意識することでDX化を目指せるでしょう。そのような意識が高まることで、業界にどんどん良いシステムが入ってくると思います。 |
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生田目: | 電子カルテは早く普及してほしいですね。手書きのカルテより電子カルテのほうが過去の情報が検索しやすく、同じような状態の症例を参考にできます。それにより、飼い主の満足度も上がると思います。みるペットはDXの観点で見ると、どのように活用できますか? |
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浅沼: | 動物病院への不満項目に「待ち時間が長い」というのがありますが、みるペットであればそれを改善できます。一定の人がオンライン診療に流れることで、現場に足を運ぶ人も減り、現場の待ち時間も減るからです。また、会計の作成や薬の調剤もオンライン診療の方には後ほどお知らせするようにすれば、院内の比較的落ち着いている時間を使って対応できます。 |
石川: | 他にも収益面も今まで無料で相談していたことをオンライン相談にすることで有料化できるので、向上すると思います。 |
生田目: | 開業されている先生は地域密着でやっているので、難しい面も多いですよね。たとえば電話で気軽に相談されてしまったら無料でやらざるを得なくなってしまいます。 |
浅沼: | そこでオンラインを使うことで、今まで無料でやってしまっていたことを正式なサービスとすることができます。サービスとしてしっかり相談に乗るので診療報酬が発生します。 |
生田目: | オンライン診療は往診に似ているかもしれません。単純に家から出て病院へ行くのが面倒という人にピッタリです。動物で言えば、今日は車がなくて外出できない、ペットが大型犬なのでなかなか連れていけないなどの、様々なケースで対応できますね。 |
浅沼: | そうですね。そこを入り口にして、徐々にオンラインのほうが適している症例をピックアップしていきたいと思います。 |
生田目: | このサービスは医療の幅を広げるものなんですね。もちろん動物医療の本質は変わらずに、提供方法のバリエーションを広げるものになりそうです。やむを得ない理由があり行けない人にも対応できるような選択肢を持つ病院が、これから増えるのではないでしょうか。DX化により医療品質が高まることを期待します。 |
生田目: | まだ、オンライン診療という領域は獣医療業界では一般的ではないと思うのですが、浅沼さんはどのような経緯でみるペットを立ち上げられたのですか? |
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浅沼: | 私は北里大学獣医畜産学部(現獣医学部)を卒業後、一般開業動物病院、企業系動物病院で勤務し、院長を経験しました。その後に動物用医薬品会社であるメリアル・ジャパン株式会社にてコンパニオン・アニマル部の学術営業として従事したのち、株式会社みるペットを創業しました。 |
生田目: | 浅沼さんは獣医師からメーカーの営業へ転職された後に独立されましたが、かなり思い切った決断だと思います。何か強い思いがあったのですか? |
浅沼: | そうですね。まず2018年に人のオンライン診療ができるというニュースを見た時に、これは動物病院にも必ず活用できると感じました。私の感覚になりますが、人向けのシステムが動物に応用されるには、どんなに早くても5年はかかります。このまま待っていたら5年は経ってしまうと感じました。私は獣医師としての立場、メーカーとしての立場、そしてペットの飼い主という立場、どれもわかります。だからこそ、オンライン診療は必ず広がっていく確信があり、私がサービスを作りたいという思いが芽生え、スタートさせました。 |
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生田目: | なるほど。海外でのオンライン診療はどうなっているのでしょうか? たとえばアメリカの医療では法律は整備されているのですか? |
浅沼: | アメリカは州によって異なります。州法で大丈夫な州もありますし、認めていない州もあります。全土ではまだ統一されていません。 |
生田目: | そうなんですね。中国ではWeChat(SNS)が盛んなので、気軽に先生にビデオ通話をかけてしまって、代金の回収に困っているという話しを聞きます。みるペットは決済のサービスもあるのでその点もカバーできそうですね。 |
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浅沼: | ビデオ通話は既存のツール、たとえばLINEやZoomでも可能ですが、決済のシステムは手間がかかります。みるペットはそこが整備されていることが強みです。 |
生田目: | 日本でオンライン診療が広がっていくと、動物病院と飼い主のそれぞれでどのような変化が起こってくると予想していますか? |
浅沼: | まず動物病院サイドでは、診療の範囲を広げることができます。対面診療だけで考えると実際に来られる方が対象となるので、ある程度限定された範囲でやられていると思います。しかし、オンライン診療ができれば、関われる患者さんの範囲が広がります。たとえば、今私たちが話しているのは東京の町田市ですが、沖縄の有名な先生や北海道の専門的な先生の医療がどこにいても受けられるようになります。飼い主側から見れば、セカンドオピニオンとして専門的な先生に自宅から相談できるようにもなります。 |
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生田目: | 国家資格となる愛玩動物看護師については何か影響があると思いますか? |
浅沼: | 愛玩動物看護師のこれからの活躍の場としても、非常に適していると思います。看護師自体が国家資格保持者として飼い主の相談に乗るのはもちろんですが、看護師さんが現場に行って、情報を遠隔にいる獣医師に正しく伝えることで獣医師の判断のもととなる情報が増え、より正確なオンライン診療が可能となります。 |
生田目: | このような動物病院へのアクセスを容易にするサービスが増えることで、動物医療全体の拡大につながるということですよね。 |
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浅沼: | まさにそのとおりだと思います。仮に良い医療があったとしても、そこに対するアクセスの悪さが動物医療の課題だと考えています。みるペットが、そのような課題への解決の一助になればと思っています。 |
生田目: | 取締役の石川さんはどのような経緯で関わるようになったのですか? そしてみるペットにどのような未来を感じていますか? |
石川: | 浅沼とは直接的な接点はなかったのですが、仲間の紹介で知り合いました。会って、単純に応援したいと思ったのが関わるようになった理由です。私は医療ヘルスケア系の会社を経営しています。医師免許を持っている人の90%以上が病院で臨床、もしくは大学病院での研究活動などでキャリアを終えられる方がほとんどですが、浅沼は獣医師の資格を持ちながらも製薬会社のキャリアがあり、動物病院での業務効率化や、ペットオーナーにより良い生活を送るためのテクノロジー開発に着手するなどの志を持っていました。若くてエネルギーがありますね。 私は外資系の広告代理店でブランドコミュニケーション、マーケティングの戦略をやっていた経験もありますから、その部分でも協力させていただいております。 |
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生田目: | 石川さんは、人の医療の部分やヘルスケアの会社の代表としてコンシューマーの気持ちもわかるので、コミュニケーション、マーケティングのジャンルにおいてサポートされているということですね。 |
生田目: | 今の現状を踏まえて、この先みるペットはどのような形になり、動物医療に影響していくと思いますか? |
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浅沼: | 私の一番の目的は、動物病院の業務効率化で、その中のひとつがオンライン診療だと思っています。動物病院の中には様々な業務がありますが、私も臨床獣医師として働いた時に、効率が悪いなと感じる業務はたくさんありました。だからこそ、今あるシステムと親和性が高いサービスを検証して、新しいシステムを作っていきたいという思いがあります。 私たちが提供する現状のサービスに関しては、オンライン診療と相談の普及を引っ張る存在になりたいですね。1人の獣医師として、オンライン診療の伝道師として、このサービスの可能性を提示することで、より議論が活発になり、メリットのある仕組みとして成り立つと思います。 |
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石川: | 私たちのサービスは時間や場所にとらわれずに、ペットを診る新しい事業を作っていきたいという想いがベースになっています。ペットと獣医師をつなぐものをデジタル化させることで、より良いQALを目指していきたい。そこについてくるメリットとして業務効率化、待ち時間の軽減などがあると思います。一番は普段住んでいる家の環境の中でも診てもらえる、車がなくてペットを連れていけない、時間がない、でも診てもらえるという点です。この先の未来に絶対に必要になるサービスです。 |
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浅沼: | 私は獣医師のひとりとして、動物医療がもっと身近なものになり、困った時にネットで調べるのではなく、直接臨床の先生に聞ける、コミュニケーションがとりやすい環境にすることが必要だと思っています。テクノロジーの力を使い、在宅であったとしても獣医師とつながった在宅医療を後押しできるような存在でありたいですね。 |
石川: | 獣医師と飼い主が身近になるものをまだまだ探し出して、みるペットとして提供していきたいと思います。 |
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生田目: | ぜひ一緒に頑張りましょう。今日はありがとうございました。 |